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こんにちわ。
ボクは東京、下町の路地裏の駐車場に咲いている桜の木です。
自分で言うのもなんですが、ボクは名木だと思ってます。
狭い場所をものともせずにしっかりと伸びた幹や枝の力強さ、
そして、柔らかくふっくらと咲く花たち…。
建物や電線に囲まれながら、ボクはいつも胸を張って春のお知らせを全うします。
すぐ近くにはいわゆる「桜の名所」と呼ばれ大勢の人で賑わう場所があるのですが、
ここの路地裏はいつもひっそり…。
もちろん、ご近所のみなさんには有名なのですが、それ以外はといえば、
たまに道に迷って通りかかった「メジャーどころ」のお花見の人が
「お~っ」と驚いてくれるぐらい。
でも、いいんです、ボクはご近所桜で十分です。
シートを広げて宴会をしてもらわなくっても、
みんなが微笑ましく見上げてくれるだけでじゅうぶん幸せです。
ボクは微笑み返す代わりに少しでも多くの花を、少しでも長く咲かせるのです。
それが年に一回のボクの役割、ボクなりのお努めなのですから…。
ということで、今日は下町の路地裏で胸を張って咲き誇る一本の桜を
見上げながらお届けしました。
では、また。
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こんにちわ。
サヨナラには余韻があります…。
愛しければ愛しいほど余韻があります…。
東宝ビルトという撮影所がその歴史に幕を降ろしました。
ここは怪獣や光の国のヒーローがたくさんの夢を作った場所です。
特撮ステージと呼ばれた第5スタジオには常に大空が描かれていて、
その前では怪獣と地球を守るヒーローが大地を揺るがしながら闘っていました。
全部で6つのスタジオを抱えるこの東宝ビルトでボクはたくさんのコマーシャルを撮影しました。
春は撮影の合間に中庭にある桜の木に和まされ、夏は空調の弱いスタジオでたくさんの汗をかき、
秋はオープンセットの夕暮れにちょっとした切なさを感じ、
冬は冷たいすきま風にスタジオの長い歴史を感じていました。
想い出がありすぎて、想い出がありすぎて、
サヨナラだと分かっているのになかなか立ち去れませんでした。
ガランとした何もないスタジオの中で、何回も何回もカメラのシャッターを切りました。
たぶんボクは目の前にある現実ではなく、過去の余韻を映そうとしていたのかも知れません。
スタジオに染みついた汗と匂い…。
スタジオに棲みついていた何か…。
それらがすべて余韻となってボクを包んでいました。
サヨナラには余韻があります…。
愛しければ愛しいほど余韻があります…。
そしてその余韻を丁寧に心の中にしまいつつ、静かにスタジオを後にしました…。
…ということで今日は、もうひとりのボクの生まれた場所「東宝ビルト」に
別れを告げながらお届けしました。
では、また。 Capoucompswerin .
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こんにちわ。
ボクは毎日のように夢を見ます。
それはまるで自分が実際にそこにいるかのような夢。
朝起きてからもなぜかその風景や会話を覚えていることが多いのです。
今日はそんな夢の中でのお話です。
ボクは、とある高校の校舎の玄関に立っていました。
並んでいる靴箱はちょっと懐かしい木製のもの。
ここは大阪の高校のようで、ボクはどうやら東京から来た転校生。
この学校のことを何も分からないまま、どうしようか…とその場に立っていました。
そこへ一人の女子生徒がボクに声を掛けてくれました。
この高校は今、体育祭の準備の真っ最中らしく、ボクは教室に行く前に、
まずは体操着に着替えるようにと、その生徒に更衣室へ案内されたのです。
昔ながらの鉄の窓枠に、ワックスの匂いのするような木の床の更衣室にはすでに人気はなし。
みんなもう体育祭の準備や練習を始めているようでした。
更衣室のロッカーはちょうど胸の高さくらいまである、金属製のグレイのロッカー。
ボクは東京から持ってきた前の学校の体操着に着替え始めます。
やがてボクは体育館へ。
そこでは卓球の練習が行われていて、小さい頃から卓球が得意だったボクは
気持ちよくスマッシュを決めていました。
体育館は広く、ボクは入り口から向かって右奥の卓球台についていました。
そのままかなりの時間体育館にいたように思います。
練習を終え、暫くののち学生服に着替えるために再び更衣室へ。
汗を拭きながら着替え、ロッカーに入れてあった荷物を学生鞄に詰め始めます。
すると、たまたまそこで一緒になったふたりの生徒の内のひとりに
「どこからきたの?」声を掛けられました。
ボクはその時彼に「自分は東京から来た」ということ、
「この学校には今日一日しか居られないこと」を告げたのです。
そう、夢の中のボクは「たった一日だけの転校生」だったのです…。
「たった一日だけの転校生」なんてありえないとは、思うのですが、
夢の中のボクはそれをちゃんと事実として受け止めていたようです。
…時は過ぎ、夕暮れとなったとき、ボクは校舎の玄関に向かう廊下に立っていました。
気がつくと隣に女子生徒がひとり。
彼女は「あ、さっきの!!」と声を掛けてくれました。
彼女はボクが玄関で迷っていたときに案内してくれた生徒でした。
ボクは昼間の突然の来訪者を快く案内してくれたことにお礼を言った後、
もう東京に帰らなきゃいけないんだ、大阪の人間じゃないんだ…と話しました。
そして、荷物が詰まった学生鞄とサブバッグを持って、校舎の玄関の方へ歩き始めました。
校舎を出て行くときには辺りはもう暗くなり始めていて、
ボクを待っているバスのヘッドライトには明かりが灯っていました。
ボクはその明かりを頼りにバスに乗る前にカバンの中の荷物をもう一回詰め直し始めました。
するとバスは突然発車のクラクションを鳴らし、ボクは慌てて乗り込みます。
とりあえず運転席の横に立ったボクは、
鞄の蓋が開いたままなになっているのに気づき一度かがみ込みました。
そしてしっかりと蓋を閉め、ゆっくりと立ち上がると、
バスの大きなフロントガラス越しに、たくさんの人の姿が見えたのです。
なんと、ヘッドライトに照らし出されていたのは、
わざわざボクを見送りに来てくれた「たった一日だけのクラスメイトや担任の先生」でした。
ボクは「たった一日だけの転校生のために、みんなありがとう」と心の中でつぶやき、
心の中で手を振りました。
やがて、バスはゆっくりとハンドルを左に切りながら進み始め、
見送りに来てくれたみんなの影が遠く消えて行きました…。
…ボクはここで夢から覚めました。起きてからもなんだか余韻を引きずってしまっていて、
しばらくは夢の中で起こったことに想いを巡らせていました…。
自分でもどうしてかは分からないのですがこんな、夢の見方がなぜか結構多いのです。
…ということで、今日はボクが「たった一日だけの転校生」となった夢の中でのお話でした。
ところで、今日でこの声日記も240回を迎えました。最近はなかなか更新の進まない日々ですが、
これからもちょっとずつでいいから前に進もうと思っています。
では、また…。
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こんにちわ。
今日、夕方、タクシーに乗りました。
それは、運転手さんとほんの少しの世間話をしながらしばらくクルマが進んだ時のことでした。
その運転手さんが、ふいに「実は私、今日が最後なんですよ…」とひとこと。
そこから続いたお話は、彼がハイヤーの運転手を34年、そのあとタクシーの運転手を14年、
合計48年間運転手という職業をやってきたということ。
年齢は77歳で、去年の年末にタクシー会社から今年の夏のタクシー台数の削減に向けて、
75歳以上の運転手の一斉退職の決定を急に告げられたということ、でした…。
「お客さん、私、朝の4時まで走ったら終わっちゃうと思うと、今日はなんだか寂しくって…」
という言葉でその話は締め括られました。
その言葉の裏には職人として自分から引退を決められなかったことへの悔しさも
滲んでいたような気がします。
ボクは領収書をもらって降りる瞬間に
「朝の4時までが少しでも長く感じられる時間でありますように、
そしてたくさんのステキなお客さんが乗ってきますように…」と声を掛けました…。
最後に敬意を込めて「ありがとうございました」と言って別れを告げました。
ボクが降りたあとどんなお客さんたちが、彼のラスト・ランをともにするのかはわかりません。
ただ、そのラスト・ランに参加出来た偶然に感謝したい気持ちです。
今日、あの電車に乗って、あの駅で降りて、あの改札から出なかったら出会うことの無かった偶然…。
一人の職業運転手さんのラスト・ランはあと数時間で終わります…。
このブログを更新している間にもその時間は近づいています。
どうか、ステキなエンディングになりますように…。
48年間、本当にお疲れさまでした…。
…ということで今日は偶然であったラスト・ランを走り抜けていた77歳の運転手さんのお話でした。
では、また。 Penlandkenrechoc .
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こんにちわ。
空に穴が開きました…。
真夏の午後、天空を見上げたら
ポツンと置き忘れられたような小さな雲の固まりと太陽が重なって
まるで空が破れて穴が開いたような不思議な見え方になってました。
ボクはその場で、もし、本当に空にポッカリと穴が空いたとしたら…と
妙な空想を思い浮かべてしまいました。
その1。まるで風船に穴が空いたように地球の空気が一気に漏れだしてしまう。
その2。太陽から地球に届く熱が瞬く間に上昇して、今からパニック状態になる。
その3。この穴は実は宇宙の方からの覗き穴で、
地球人の知らない間に何気なく頻繁に空けられている。
その4。これは単なる穴ではなく、タイムスリップへの入り口である。
その5。この穴の向こう側には実は現実と全く同じ世界が存在していてる。
例えば人が夜夢を見ているときはホントは向こう側の世界に行っている。
考え始めたら切りがなくなってしまいました。
たったひとつの偶然の現象がいろんなことを考え出すきっかけになったりすることがあります。
もしかしたら、見方や考え方をちょっと変えるだけで、
目の前に起こった偶然だけでなく、日常そのものの中にも、
とんでもなく面白いことを考えさせてくれるきっかけってたくさん潜んでいるのかも知れません…。
…ということで今日は、突然ポッカリと空いた天空の穴を眺めながらお届けしました。
2005年の3月13日、たった24秒間の放送から始めたこの声日記もやっと250回目を迎えました。
ここ最近の10回を更新するのに約一年。ちょっと反省しつつ。
では、また…。 Scasvaltodunnpe .